EBMとは(日本理学療法士協会HPより)

 EBMとは、「個々の患者のケアに関わる意思を決定するために、最新かつ最良の根拠(エビデンス)を、一貫性を持って、明示的な態度で、思慮深く用いること」、「入手可能で最良の科学的根拠を把握した上で、個々の患者に特有の臨床状況と価値観に配慮した医療を行うための一連の行動指針」、「個々の患者の臨床問題に対して、(1)患者の意向、(2)医師の専門技能、(3)臨床研究による実証報告を統合して判断を下し、最善の医療を提供する行動様式」などと定義されています。
 EBMは、(1)患者の臨床問題や疑問点を明確にし、(2)それに関する質の高い臨床研究の結果を効率よく検索し、(3)検索した情報の内容を批判的に吟味し、(4)その情報の患者への適用を検討し、(5)(1)から(4)までのプロセスと患者への適用結果を評価する、という一連の情報処理過程を通じて、個々の患者に最適な医療を提供することを目的とした行動様式です。EBMは、抽象的な概念や理論ではなく、具体的な行動や判断の基準を示した実践的な情報処理の手法だといえます。
 EBMが現在のように世界的な規模で注目されるようになった背景には、(1)科学的な根拠に基づいた臨床判断の必要性に対する医療者側の意識が高まってきたこと、(2)患者や家族がインターネットを利用して医療情報を入手しやすくなったことにより、医療の内容・質に対する患者側の意識が高揚してきたこと、(3)インターネットを利用して、コクラン共同計画などのエビデンス・データベースから、質の高い臨床研究の結果を効率よく入手できるようになったこと、(4)臨床疫学や統計学の進歩により、根拠となる臨床研究のデザインや方法論、妥当性・信頼性を判断するため基準が整備されてきたこと、(5)医療の標準化と効率化を求める行政側からの要求が高まってきたこと、などが影響しているものと考えられます。
 EBMは、このような社会の要求と技術革新を背景にしていますが、EBM自体の有効性・効果を証明するエビデンスが乏しく、まだ明確な結論は出ていません。また、医療の標準化と効率性はEBMの本来の目的ではありませんが、EBMが医療の質を向上させつつ医療費の削減に貢献できるかも議論されています。理学療法の置かれている背景も同様であり、新しい技術や理論を積極的に取り入れ、第三者を納得させることのできる根拠を提示して社会的な要求に応える必要があると思われます。
 このようなEBMの概念は、看護学分野におけるEvidence-based Nursing(EBN)、理学療法学分野におけるEvidence-based Physical Therapy(EBPT)として、医療分野の臨床判断(clinical decision making)における新しい行動指針として導入されるようになってきました。